「所長!例の案件、いけそうです!担当者にもう稟議上げるからって言われました!」
営業所でよく聞くこのセリフ。
「よしよしよくやった。あとは発注を待つだけか。」
と一安心するかも知れない。
だが、今までこんな事はなかっただろうか。
◾️稟議が上がってから一向に発注の連絡がない。
◾️「上層部からの指示」で競合他社への発注となった。
◾️設備投資の凍結により、商談そのものが消滅した。
これらは果たして「仕方のない事」なのだろうか。
答えはNO。
これは決して顧客の事情ではない、あなたが「稟議の正体」を知らないだけだ。
トップマネージャー、トップ営業は「稟議が通る仕組み」ごと作っている。
そのためにはこの「稟議」とやらは、誰が、どこに、どうやって上げてるか。
そこを知る事から始めなければならない。
企業がモノを買うということ。
そもそも稟議、稟議と普段から発するこの言葉、この正体を理解する事から始めなければならない。
◾️稟議書
稟議書とは稟議のために作られる文章のこと。
主管者が立案内容について関係者に決裁・承認を得るために作成する書類ことである。
個人では決定できない事案について、上層部などの関係者から承認や決裁を得るために
使われ、起案書、立案書ということもある。
稟議書を用いることにより起案者・承認者・決裁者など、責任の所在を明確にすることが出来る。
つまり稟議とはその事案に対して総合的に妥当性があるか、
法人格として確認するための行為である。
例えば個人がTシャツを買う場合は、この意思決定を全て1人で行なっている。
色や素材、質感、価格、納期など個人として納得が出来れば、その買い物には十分に妥当性がある。
私が納得していれば、GUで500円のシャツを買おうが、ファンクラブ限定の推しアイドルのイラスト付シャツを20,000円で買おうが、それは十分に妥当性がある。
ただ会社として、Tシャツを買う場合は違う。
「法人という人格」として十分な妥当性が担保されなければならない。
安くても生地が薄くてヨレヨレのシャツは着させられないし、スポンサードしていない限り、アイドルの推しTなんてもっての他だ(もっとも従業員が先に辞めると思うが…)。
つまり担当者が「これが欲しい!」と思っても、それだけでは意思決定できない仕組みになっている。
法人格としての意思決定には、「多視点からの妥当性」が求められる。
それは「価格」だけでなく、「安全性」「印象」「政治的配慮」など、多数のパラメータを満たす必要がある。
つまり我々営業マンが相対している目の前の「担当者」はあくまで法人という巨大な生き物の「一部」でしかないのだ。
だから我々営業が理解すべきは、稟議起案が上がった事を「受注待ち」と捉えるのではなく、
巨大な生き物の全貌を知ることに注力しなければならない。
稟議書から見えてくる「地雷系おじ」
ここで実際に作成した稟議書を例に解説を進めていく。

これは従業員数約1000人規模の中堅企業で、数百万程度の設備購入時の稟議書だ。
ここから見ても稟議が上がった後にも様々なボトルネックが存在している事が分かる。
◾️たくさんの「おじ」が稟議に関わる。
これはたかだか数百万円の買い物だ。
それでも法人が何かを買おうとすると総勢10人の承認が必要になる。
◾️稟議を止めてしまう「おじ」がいる。
法人格が生き残り成長していくためには意思決定のスピードが何より重要だ。
特に稟議文章はそもそも、会議などを経ずに意思決定のスピード化と効率化を目的に作られているものだ。
それにも関わらず、3日、4日と稟議を止めてしまう人物が必ず複数発生してしまう。
しかも何か重要な検討をしているわけではなくただ「忙しい、手が回らない」という理由だけでだ。
そのくせ止める人物に限って、重要な意思決定を持つものではなく、単なる査閲者と相場は決まっている。
◾️稟議を差し戻す「おじ」がいる。
しかも本質から外れた、形式的な部分でだ。
この稟議書を見てほしい。
総務GLが「採用しないB社の見積不備」で差戻しを行なっている。
査閲者はその意思決定に対して、それぞれの部署において齟齬がないかを確認する立場である。
稟議の根幹となる「メーカー・商社・リース会社」の選定は既に営業本部長の承認でほぼ固まっている状態にも関わらず、意思決定の外枠の部分でこの様な重箱をつつく人物は必ず表れる。
ちなみにこのケースは実際の私が書いた稟議書をアレンジしたものだが「発注しない業者」に対して「書式不備による再見積」を取らせる総務GLに対して、信義にもとる最低な行為だと憤った事を今でも良く覚えている。
おそらくこの業者は今後我々が困った時に助けてくれる事はないだろう。
敵は見えてきた。あとは対処するだけだ。
稟議とは、顧客の「感情」ではなく「構造」との戦いだ。
そして多くの営業は、その構造の一部しか見ずに戦っている。
「担当者が欲しいと言った」
「稟議に上がったと言われた」
——そんな言葉に安心してしまった瞬間に、商談は宙ぶらりんになる。
本当に勝負すべきは「稟議のその先」にいる存在たち。
誰がどこで何を見て、どんな理由で止めるのか。
その構造を知っている営業と、知らない営業では、勝率に雲泥の差がつく。
実際に見てきた中でも、稟議書というのは「意志決定の地図」そのものだ。
営業本部長で方向性が固まっていても、その地図の片隅で書式不備で止めるバカがいる。
「忙しい」を理由に法人の息の根を止めるバカもいる。
その地雷を事前に把握していたかどうか、それが分岐点となる。
つまり、あなたの商談が通らなかったのは競合のせいではない。
担当者の熱意が足りなかったわけでもない。
あなたが「その法人の意志決定の地図」を知らなかっただけだ。
次回はその地図をどう描くか。
営業として、どこまで潜り、誰まで巻き込めば勝てるのか。
「地雷系おじ」の爆発を未然に防ぐ、“地雷マップ”の描き方について、
具体的な分析と実例を交えて解説していく。
敵が見えたなら、あとは道を描くだけだ。
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